<きつね>。
ストラヴィンスキーの作品の中でも好きな方の部類に属する。
<兵士の物語>から抒情性を完全に抜き取って、<結婚>のような土俗性をいくらか足したような感じ。土俗性は単にツィンバロンがアンサンブルの中に加わっているからだけではなく、声楽パートに見られる節回しであったり、どさ回りの楽隊を思わせるようなブラスの響きやリズムから感じられることだ。
明らかに大劇場向けの<火の鳥><ペトルーシュカ><春の祭典>とは違って、<きつね>はもっと舞台と客席とが近い空間を想定して書かれたのではないかと思う。作曲されたのが大規模公演を打ちにくかった第1次世界大戦中だったということもあるだろうが、それ以上にクラシック音楽の世界にヴォードヴィル的な要素を持ち込もうとする試みだったようにも思える。その意味で、芸術性と大衆性の両方を満足させようとした欲張りな作品だったと言えなくもない。
歌劇でもなくバレエでもない、音楽をメインとした舞台作品。これは発表当時新しかった表現のはずで、ドビュッシーやラヴェルのような人々からは出てこないノリだった。ストラヴィンスキーは音楽家であり舞台人でもあったのだ。