昨年の4月のことだ。たまたまNHKの「新日曜美術館」を観ていたら、驚いた。知多半島辺りの観光用の鳥瞰図である。対象の地域のデフォルメの仕方が大胆極まりないポップなノリになっていることにまず驚いたのだが、それ以上に、図に実際にはそんなに見えるはずもない富士山がはっきりと描かれていたり、水平線の彼方に「サンフランシスコ」という文字があるのには、笑った。テレビでは荒俣宏が、そのハチャメチャなセンスに対してコメントしていた。
その鳥瞰図の作者が吉田初三郎だった。番組後しばらくしてから書店で見つけたのがこの別冊太陽のものだ。
日本のどこの鳥瞰図を書いたとしても、必ずと言って良い程どこかに富士山が見えている。そして水平線の向こうには外国の地名も。はたまた実際の縮尺を全く無視したとしか言い様のない巨大な建築や汽車。デフォルメもここまでくれば立派。一方で、にもかかわらず実用的なのが素晴らしい。つまりその鳥瞰図を見る者にとって大事な情報をことの外しっかりと描くことに重点を置いているのだ。さすがに「大正の広重」と呼ばれただけのことはある。
あと凄いのは、いやとにかく凄惨と言うべきものは原爆投下時の広島を描いた戦後の作品だ。これは番組でも紹介されていて、相当にショッキングな印象を持ったのだが、改めて本の図版としてそれを観ると、写真などよりも更に恐ろしさを感じずにはいられなかった。
とにかく吉田初三郎。現実を歪めてもなおそれ以上の現実さをポップに表現する職人技に感嘆させられるばかりだ。