1989年、東ベルリンに住む一家。ある日、母親が倒れる。昏睡状態のさなか、社会は大きく動いてベルリンの壁崩壊、東西ドイツの統合を迎える。そんな最中に社会主義一辺倒だった母親が目覚める。果たして…。
もうこの設定だけで十分に楽しめる。もちろんその中で描かれる家族の愛情は、実は痛々しい程である。一見、喜劇的にも見えるこの作品は、実のところ悲喜劇と言った方が良いのだろう。秀作。
主義の違いがこうも人間を分断してしまう、ということに歴史を感じると同時に、現在世界で起こっていることを考え直す。中東の混乱と悲惨が何から生まれているのか。また排他的性質を伴った論調で「自己責任」などと、ある局部について唐突に言い出す輩は何を根拠にしているのか。「正しさ」というものが、本当はとんでもなく危ないバランスの上に成立しているものであって、どちらか一方の性質にしか含まれないという考え方は間違いだと思う。
旧東ドイツが組織的で目に見えるかたちで牢獄だった、と言うならば、現在の日本は目に見えない牢獄になりつつある。それを成り立たせているのは、組織でもあり、非組織でもある。互いに都合のいいようにもたれあっているのだ。タチの悪いことだ。「反日的分子」などというくだらないことばを使う人間にとっての日本と、私の思う日本は多分別の国である。独裁的社会主義に勝利したのは資本主義国家ではなく、真の民主主義を願う人々であったことを理解していない人間は政治家に多いのだろうか。その意味で、日本は果たして民主主義国なのか? システム上はその体でも、人々の心の中に住んでいるのは「お上」に反対することを許さない封建主義ではないのか。映画の感想から脱線した。