何しろ登場人物が多い。登場人物が多いということは、推理小説では容疑者の推測が難しくなるのはもちろんだが、殺される可能性のある人物も多くなるということでもある。人間関係も複雑になるし、だいいち、各々の人物設定もなかなか頭に入ってこない。本気で読むのなら、きちんと紙に諸条件を書き出すべきなのだろうが、僕はまあ「一見さん」みたいなものなので、略式でいかせてもらう。
坂口が連載当時、読者に懸賞で犯人当てを呼びかけている文章が、章末ごとに挟まれる。これは知恵較べである。なかなか挑戦的で面白い。僕も実際に、というかもちろん犯人を考えながら読む。先回りをして言えば、僕は半分くらい読んだ所で犯人を推測することが出来た。もっとも、細かに読んでいない(書き出し含めて)から、作中で起こる全ての殺人の状況を説明し切ることはできないのだが、まあ正解は正解である。
<不連続殺人事件>はもちろん推理小説だが、心理小説でもあると思う。殺人の手段、方法に関してはトリックらしいトリックはない代わりに、作中で完結するのではなく、読み手と作者との腹の探り合いのような雰囲気があるからだ。多数の登場人物や、書かれた当時の世相あるいは荒んだモラル、それらに対する皮肉など、後から思えば余計な情報をたくさん振りまきながら、読み手を罠にかけていこうとする。
そしてこの作品が面白かったのは、きちんと全ての事件に対し、理にかなった説明が出来ることだ。種明かしの段になって、突然これまで現れていなかった事実や物証などが明かされる、ということは一切無い。
しかしそれにしても、ここに出てくる人々の節操の無さと言ったら、まさに無頼の輩である。