芸館で開催中。僕は全く知らなかった版画家だが、ポスターが何となく「イイ感じ」だったので出かけてみることにした。
武田はもともと岐阜県高山の出身で、昭和の初めに中津の学校に美術教師としてやってきて、長く同地を中心に活動したのだそうだ。
会場に入って、一番最初に目に映るのは油彩で描かれた花の絵だ。3点ある。見ると、1923年、44年と制作年不詳とある。が、どれも同じような構図で重い雰囲気だ。これはダメだったか、と思いつつ、本題の版画作品を見始めると全然様子が違ってくる。
多色で刷られたものは、どれも柔らかく淡い色調で彩られている。細かな部分にこだわるというよりも、大づかみに色合いが分けられていっているのだが、その大らかさ、穏やかさの味わいが素晴らしい。いや、むしろ「あじわひ」と記したい。
花瓶に生けられた花を題材にしたものもいいけれど、僕は風景を扱ったものの方が好きだ。それは僕にとってなじみ深い大分の景色が多いから、というよりも、決して際立って特徴的とは言い難い景色に、安らぎという共感を抱いていることが何となく伝わってくるからである。確かに一時期武田が一緒に行動した棟方志功のような強烈な個性ではないかもしれないけれど、逆にある種の慎ましさが感じられ、そこで観る側も安心できるのだ。
なかなか心易い展覧会ではあったのだが、一点だけ気になったのは展示室内のスタッフがやたらにうろうろすること。他の観覧者とは違い、作品に近い位置に立たずに、ただその室内をふらふらしているから、こっちの視線に入ってくるし、動く音が障る。ヒマなのは分かるんだけど。