ちょっと前の話だが、ハンガリー出身の作曲家、ジェルジ・リゲティ(1923〜2006)が亡くなった。僅かではあるけれども同時代を過ごした音楽愛好者のひとりとしてやはり残念に思う。僕が知っている彼の作品は、全作品の中ではほんの一握りだろうけれど、名作は多いように感じている。
いわゆる「現代音楽」において「名作」と呼ばれるものは、コンセプトが独創的であるかどうかにかかってしまう。本当は聴き手の気持ちをどれだけ動かすことが出来るかどうかの方がより大事なはずだが、どうしても頭でっかちな話になるのだ。しかし、たとえそうであったとしてもリゲティの作品(もちろん僕が知っている範囲に過ぎないが)は十分に独創的なものばかりだ。
リゲティの代表作をどれかひとつと言われたら、正直、迷う。1940年代から亡くなるまでずっと「前衛」の場に立ち続けたのだから、その音世界の豊かさは驚くべきだ。そうは言っても、もしどれか、というならば1961年作曲の<アトモスフェール>を挙げよう。音の塊(トーンクラスター)の概念を追究した作品である。オーケストラ全体で密集した不協和な響きを出すが、それが何と美しいことか。 演奏開始後2分辺りで辿り着くところが最初の「絶景ポイント」である。弦楽器から始まる見事な音のグラデーション。スタンリー・キューブリックの映画<2001フ動き方に感銘を受けるはずだ。
アバド/ウィーンpoのCDには<アトモスフェール>の他にもう1曲、1967年の<ロンターノ>が収録されている。こちらもまた名作。