予告編を何度も観たから、というだけではないが、始まった瞬間から「味わい」を感じる。
かつて愛した女性、と思われる人物から手紙が届く。男(ビル・マーレイ)の息子がいるという内容だ。男の恋愛経験は豊富だ。お節介な隣人の勧めのまま、男は手紙を出した女性が誰なのかを捜す旅に出る。
何かとぼけた雰囲気が全編に流れている。同時に、何と言うのかなあ、「侘びさび」の風情もずっと漂っているように思える。会話やしゃべりの部分は意外に少ない。だが、言葉の無い時間、文章で言えば行間にあたるような部分が、あまりにも濃密だ。一見、何でもないような画面なのに、男の表情(これはもちろんビル・マーレイの素晴らしさ)に限らず、映し出された物でさえも味があるのだ。饒舌でも寡黙でもない「程良さ」に素直に共感できる。だから、決してテンポが速い訳ではないのに、約100分があっという間だ。
最後の方で、旅する青年に男が言った、過去でも未来でもなく現在を大切に、という意味の言葉は、それだけ聞けば実にフツーなのに、そのセリフに至るまでの流れをずっと見続けてきた僕らには、あまりにも含蓄のある言葉として聞こえてくるのだ。
確かに、傑作である。
それからあと音楽のこと。あちこちで使われているのはエチオピアのジャズである。泥クサいヘンテコな音楽である。「である」と言い切れるのは、自分の持ちネタのCDにそれがもともとあったから(笑)。モノは<エチオ・ジャズ&インストゥルメンタル・ミュージック>というCDでございます。こちらもオススメ(笑)。