前にも書いたが、シューベルトの音楽は、僕にとって最初からとっつきが良かった訳ではない。初めて行ったオーケストラのコンサートで演奏された<未完成>はよく分からなかったし、高校生の時に聴いたオール・シューベルト・プログラムのピアノのリサイタルではかなりの時間寝ていたし。
シューベルトの良さは、実は、年をとらなければ分からない。その思いはずっと変わらない。
その一方で、シューベルト本人は31歳で死んでいる。今より平均寿命が短い時代だったとは言っても、やはり夭折だろう。しかしその生涯に彼が遺した作品の量は膨大である。いろいろなジャンルがあるとしても1000曲はくだらない。そしてそこに含まれる、いわゆる名曲と呼ばれる作品も数多い。
積み上げられた作品をざっと眺めて、ふと思うのは、シューベルトは何を思い、感じながら生きていたのだろうか、ということである。作曲するのは楽しかったに違いない。何しろ希代のメロディ・メーカーである。形式感、構成力に少々コンプレックスがあったにしても、やはり次から次へと楽想が浮かんだのだろう。楽譜として書き留める方が大変だったはずだ。
だが僕は、彼の音楽に「生き急ぐ焦り」にも似た感覚を感じることがある。テンポの速い曲や楽章に特にそれがある。速い音楽なのだから当然じゃないか、と言われればそれまでだ。しかし、たの作曲家の早いテンポの音楽にはないような、奇妙なまでに切迫感が感じられて仕方がない。何か駆り立てられ、追われているようなのだ。
<死と乙女>の最終楽章がそうだ。この弦楽四重奏曲の場合、曲のほとんどが重苦しい空気に覆われている。嘆きだとか悲しみだとか言う以前に、べったりと暗い。最終楽章はその空気を背負ったまま、突っ走る。振り払えない。とにかく走り続けるしかない。聴き終えても後味がいいとはとても言えない。
シューベルトは何を考えていたのだろうか。彼自身もはっきりと理解はしていなかったかも知れない。ただそうすれば音楽作品として成立する、という直観が働いたのか。では、その直観の背景には何があったのだろうか。
現在の普通の20代、30代の青年には見えない、感じられないものを、19世紀の青年、シューベルトは捉えていたのだと思う。