僕は、小学校から高校時代にかけて「歴史少年」だった。もともと小学校に上がる頃に日本の城郭に興味を持ったのがきっかけだった。何で好きになったのかは、今でもいまひとつ分からないのだが(笑)。
さて、そんな時期を経て僕は僕なりの日本の歴史観というものをつくってきたはずだ。もちろんこれは程度の違いはあるにせよ、日本で教育を受けた人全てに共通のことだと思う。日本はもともと農業社会であるとか、被差別民は政治的に作られた制度だとか、女性の自由は殆ど無かったとかいったようなことである。
しかし、そういった既成概念を見事に覆してくれる学者さんが居る(正確には居た、だが)。網野善彦である。前に彼が足利義満が天皇家から皇位を奪おうとしていたあたりのことをテーマにした<異形の王権>という著作を読んだことがあり、それはとても興味深く面白く読めた。それで今回表題の本が文庫で出たので久しぶりに読むことにしたのだ。
「百姓」ということばイコール農民ではないとか、日本は絶対的な農業社会ではなく、商工業も水上交通での流通を軸として非常に盛んだったとか、被差別民は本来宗教的に特別な役割を持った人々であり差別の対象ではなかったとか、目から鱗が落ちるような話ばかりであり、僕らがかつて学んだ日本史よりも遥かにダイナミックな社会であったことが分かる。
自虐史であろうと民族史であろうと、どうこう言う前に、まず日本と呼ばれる社会の実態をより正確に知らなければその先には行けない。史実は史実として受け止めなければ、偽りの歴史を積み重ねていくことになるからだ。