グレン・グールドの弾くバッハの<ゴルトベルク変奏曲>を聴いた。グールドの<ゴルトベルク>はスタジオ録音が2種類あるが、その古い方。1955年録音。確かグールド自身のデビュー盤でもあるやつ。
今までにも何度も聴いてきた録音だけれど、今日の感想。バッハとグールドの、ほとんど合作なんじゃないかとまで思った、ということ。大バッハに失礼!の無いように言わなければならないが、でもこれだけの演奏なのだから許してもらえるだろう。
軽やかさ。これが全てだ。それはこの録音で全ての繰り返しを端折ったから(LP収録の都合かどうかは知らないが、多分当時のグールドの解釈もあっただろう)、というだけではない。グールドの弾きっぷりがあまりにも鮮やかなのだ。緩急自在。そして何声であっても、明確なタッチで全ての音をしっかりと鳴らす。凄いのは細かい音になればなるほど冴えていることだ。「マジすか!」と言いたくなるぐらいの箇所はいくつでもある。しかもそれは、いわゆるテクニシャンが「これでもか!」と言わんばかりに見せつけるような弾き方ではない。むしろ「そう言えばスゴいね」という感じだ。で、その「そう言えば」の前に来るのが、曲の面白さなのだ。30の変奏の全てが個性的で変化に富んでおり、気が付けば最後のアリアにたどり着いている。
グールドの演奏は古楽的なアプローチとは違うところから生まれたものだろう。でもその軽やかさ=自由さは大いに通じるものだろうし、「音楽室の肖像画的」バッハからはいちばん縁遠い、しかしこれもバッハそのもの、と思わせてくれる。