ある演奏会に行った。休憩前のプログラムだけを聴いて帰ったが、演奏会自体には特別に言わなければならないようなことは無い。
ただそこで演奏されていたチャイコフスキーを聴きながらふ〜っと思ったこと。たまたま数日前に芥川賞・直木賞が発表されたせいだろうけれど、頭の中で「直木賞作家・チャイコフスキー」というフレーズが浮かんだ。
チャイコフスキーの音楽の特徴。メロディーが美しい。分かりやすい。この二つを両立できる作曲家は意外に少ない。もちろん両立できることと、いわゆる芸術性の高低は別の話だ。しかしチャイコフスキーのよく知られている曲を、改めて素直に聴き返すと、その大胆さに気付くことも多い。例えばピアノ協奏曲第1番の出だしはどうだろう。あまりにも有名過ぎて、当然のように食傷気味になりやすいが、ホルンのあんな雄叫びで始まる曲は、オペラやバレエなど舞台ものを除くとどれだけあるのだろうか。彼の交響曲第4番やマーラーの交響曲第3番は直ぐに思い出せるが、他には? また、今出た交響曲第4番の第3楽章、弦楽器は全てピツィカートで通される。
アイデアの勝利。それはもちろんそうだが、部分的な効果に留まらず、全体の流れの中でちゃんと意味あるものとして収まっているのは、やはり凄いことだと今更ながらに思う。だが、彼は実験主義者ではない。ひとつの曲をまとめる力という点に於いて職人的な上手さがある。そして、僕は演歌的な濃さすら感じることも多く、決して大好きな作曲家ではないが、でも分かりやすさ=親しみやすさは抜群だ。
その意味で、僕には「永遠の直木賞作家」チャイコフスキーなのだ。