休み。
原宿で下車。最も僕に似つかわしくない街である。だが、それでも行っておきたい場所はある。ラフォーレ原宿、の裏にある太田記念美術館だ。ここは浮世絵の専門美術館で、以前から訪れてみたい美術館だった。
今回は<浮絵>展である。浮絵は、西洋風の遠近法を取り入れた絵のことで、徳川吉宗の時代に流行したものなのだそうだ。言われてみれば、水墨画や絵巻物では遠近感が曖昧だし、そもそもある一点からの視線でない状態の方が多いようにも思える。となると、絵画、特に風景を扱う絵については、昔の日本人は一点からの遠近感という感覚自体が存在していなかった、というふうにも思われるが、実際にはどうだったのだろう。
この展覧会では浮絵を年代順に並べており、その技術の進化も理解しやすい。確かに初期の浮絵では、部分的には遠近が分かるのだけれど、ひとつの画面上に複数の消失点が存在して、何か奇妙な感じの絵になってしまうことが多かった。単に、遠くにあるものを小さくなるように書けば良い、というものではないのだ。
そして歌川豊春である。彼の作品では遠近感はたいがいきちんとしているから、自然で見やすい。展示されていた彼の作品に<浮絵駿河町呉服屋図>というものがあった。呉服商の越後屋(今の三越)の賑わう店内を描いたもので、僕は子供の頃、学研の図鑑だったかで、この作品を見た記憶があった。30年ぶりぐらいで再会した訳だが、絵として観てもやはり面白い。
豊春を観てみると、彼あってこその北斎や広重だったのではないかと思う。浮世絵というと日本独自のスタイルにも思われるが、実際には西洋風の遠近法を巧みに消化して、伝統的な表現法との融合により完成されたものであることがよく分かる。
太田記念美術館の落ち着いた雰囲気は非常に僕の好みだった。靴を玄関で脱いで、スリッパ履きで館内を移動し、場所によっては畳の上から作品を鑑賞出来るのだ。日本の伝統的な美術作品はやはり畳で観たいものだ。