世田谷文学館に初見参。
「J・J」氏こと、エッセイスト、評論家の植草甚一に関する展示会を観に行った。
僕が触れた彼の文章というのはほんの一部でしかないが、彼独特のスタイルに面白さを感じてもいた。それは膨大な情報を自由にコラージュした軽やかな筆致は、他の誰も真似出来ないものなのではないか。ミステリーや映画に関しての文章も重要なのだろうが、僕にとってはジャズ評論家としての彼がやはり気になる。
そんな彼にまつわる品々を集めた展示会である。
コラージュ作品や写真、所蔵していたレコード等さまざまなものが並んでいたが、興味深かったのは原稿や手紙だ。まだワープロやパソコンが無い時代でもあったから、当然と言えば当然だが、よほど書くことが好きだったのだろう。仕事としての原稿以外にも私信としての手紙や、連絡メモ的に名刺にひとことふたこと書いたようなものまである。電話を使わなかったはずはないのだろうけれど、相手に向って細やかに書いている。それは相手に対する誠実な態度と言っても良いのかもしれない。
乱読、乱聴をものともせず、そこからきちんと得るものは得ていた、かつそれを再編集=コラージュしてアウトプット出来た、というのは、やはり凄いことだ。膨大な情報量に尻込みするどころか、むしろそれを楽しんでいたのだろうと思う。
余談。彼が最晩年に<スイング・ジャーナル>のために書いた文章の直筆原稿があった。タイトルの下に編集者への注意書きのように赤のボールペンで何か書いてある。よく見れば「中山様」とある。多分、中山康樹のことだろう。前に彼の半生記を読んだ時に、彼が植草に原稿を頼んだ話があった。その文章ではなかっただろうか。