あー、パリっていいかもしらん。
と、ふと思えるそんな作品だった。と言ってもパリの良い所ばかりを作品化していわけではない。パリだって人種差別や経済格差もある。孤独な人が居て、旅人が居て、恋に破れた人も居る。全ての人がハッピーな街など、何処にも存在しないだろう。だが、一方で客観的に見れば、そうしたさまざまな層が集まることで街の個性が生まれていくのだ。街の個性は、現在そこに住んでいる人々と、かつてその街に住んでいた人々が築き上げた歴史とが織り成すもので、それは刻一刻と変化し続ける。その流れに断絶が無いからこそ、一貫したものとして目に映る。
5分間×18作という全体のつくりの中には、正直なところ、アタリハズレがある。5分間がひどく長く感じられるものと、あっという間のものと。軽いノリのつもりが軽過ぎたり、幻想的なつもりが意味不明になったり、ということでもある。それもまたメリハリということになるのかもしれないが、ダメな方の作品のレヴェルがもう少し上だったら、更に全体が楽しめただろうに。
パリに行ったこともないのだから無責任なことは言えないが、少なくともこの作品に出てきた場所を観ていると、パリは大人の街だなあと思う。大人の会話、意味深い言葉が似合う雰囲気なのだ。互いに想いを残しつつも離婚調停のために会う夫婦の話<カルチェラタン>、盲目の青年と俳優志望の女性とが出会い、過ごす<フォブール・サン・ドニ>、初老の男と彼と親しい関係にあるらしい若い女性との会話とそのオチのつけ方が楽しい<モンソー公園>などが素晴らしいと思ったが、全体の最後に置かれた<14区>が特に良かった。ここでの登場人物はアメリカからやってきた女性の旅行客だが、観光名所でもなく、彼女が勉強したフランス語を使える場所でもなく、きれいな小さな公園で、初めて彼女はパリに受け入れられたと感じる。パリという街に住む人たちが、のんびりと、ぼんやりと昼下がりを過ごしている公園の景色こそ、彼女にとっては生身のパリなのだ。
街の魅力の多くは、実のところ、そこに住む人々が醸し出すものであり、実はそれは他所から来た人の方が敏感に感じとれるものなのだ。