もう少し正確に書くならば、バーデン・パウエルと彼の息子フィリッペ・バーデン・パウエルとベンジャミン・ルグランがメインを務めている。どうもこのアルバムがバーデン・パウエルの最後のスタジオ録音だったらしい。
確かに、この録音、バーデンのギターの扱いがそんなにフィーチュアされているようには思えない。だが、必ずしもそれは彼の衰えのためとかいう訳ではないだろう。もちろん僕はギターについても全くの素人ではあるけれど、ここでの彼のギター演奏自体がやはり素晴らしいということは容易に理解できる。
だが実際のところ、僕がこのアルバムを知るきっかけになったのは、某CD店でかかっていたからで、しかもそれはバーデンのアルバムであることを知ったから購入したということでなく、尋常でないぐらいの凄まじい勢いのスキャットがリズミカルなギター、ピアノ、ドラム、ベースなどと絡んでいる状態に圧倒されたからだ。僕がその店内に居た時は<Berimbau>が流れていた。曲そのものは直ぐに分かったから、その時点でバーデンかな、と思いはしたが、何よりも上述のとおりの演奏に、直ぐに心を奪われた。
さて怒濤のスキャットを披露していたのがベンジャミン・ルグランである。かのミシェル・ルグランの甥ということだが、多分ミシェルの姉のクリスチャンの息子ではないだろうかと思う。クリスチャンは<スウィングル・シンガーズ>の創設メンバーであり、現代音楽からジャズ、宴唐フ声質に似ていることも分かるから面白い。
このアルバムではベンジャミンのクレジットが「歌と即興」となっている。それこそバーデンのギターに絡む何か別の楽器のようにすら思えるのだ。それぐらい、声の操り方が素晴らしい。ただ勢いで早口にまくしたてるばかりでなく、曲の盛り上がりのツボに恐ろしいくらいにピッタリとハマっていくのだ。さすがルグラン一族(笑)。
収録曲は<Berimbau>の他に<Canto de Ossanha><Agua de Beber><One note Samba><Corcovado><Chega de Saudade>など名曲ぞろい。だからこそ、この怒濤のノリが嬉しかったりする。