太宰府天満宮への参拝を兼ねて、九州国立博物館で開催中の<若冲と江戸絵画展>を観た。
伊藤若冲のことは何年か前から興味を感じていた。特に彼が描く動物の絵(とりわけ鶏)は、大胆さと異様さとが同居するものだと思う。
今回のプライス・コレクションに含まれている作品では、やはり<鳥獣花木図屏風>だろうか。モザイク状にマス目で埋め尽くされた屏風全体を、鮮やかな色で彩られた動物たちが所狭しと居並ぶ様は圧巻としか言いようがない。一双の屏風はそれぞれ、鶴、孔雀、オウム、鶏をはじめとする鳥たちと、象、虎、馬、猿などをはじめとする獣たちとが描かれているのだが、果たして実際に若冲が目にした動物はどれだけいただろうか。江戸時代の日本で一般人が見ることのできない、異国の動物たちがここには多数居る。東南アジアやインドの何処かにありそうな南の楽園を思わせるのだ。南の楽園と言えばゴーギャンを連想するが、若冲はゴーギャンよりも1世紀早い上に、もちろん現地など訪れてもいない。絵手本的なものはあったのかもしれないが、それにしてもよく描いたなあと思わずにはいられない。
若冲の動物たちは、大きなデフォルメをされている訳ではないのだが、どの動物をとっても何か人なつっこさを発散しており、それが楽しい。
展覧会全体を通じて思ったのは、当時の絵描きたちは西洋的な意味での視覚上のリアリズムを追求するのではなく、情感のリアリズムに徹していたのではないかということだ。それは描かれる対象物だけでなく、描き手自身の情感そのものも、である。それが日本的な繊細さ、ということに結び付く。僕は若冲を大胆とか異様とか最初に書いたけれど、それらは繊細な感覚があってこそはじめて生まれてくるのだろうと思う。