愛知県美術館の<吉原治良展>を観る。前衛美術グループ「具体」の指導者的存在だったことは知っているし、吉原の作品は、これまでにもどっかどっかで観ているが、彼の作品ばかりまとめて観るのは初めてだ。
まず初期。良家の坊ちゃんらしいというか、風光明媚な芦屋の風景に影響されたというか、色調が明るい。自画像なんか観ていると怖いもの知らずっぽくも見えてしまう。
だが、<朝顔と旗>や<怒りと貝の花>、<碇と歯車>を見ると同時代の前衛写真のノリにそっくりだ。植田正治が戦前に鳥取砂丘で撮った一連のモダンな写真を思い出した。しかし明るい色調で描かれていることで、よくよく考えればシュールなはずの画題を軽やかな印象に変えている。更に1940年の<作品>になると、僕の大好きなマレーヴィチの<白の上の白>のような大胆な抽象に至っている。
戦後になるともうイケイケの前衛だ。そして1950年代の完全なる抽象作品を観ていて思った。一見、壁の落書きだが、カンバス上に存在する色、線、筆遣いは純粋に力強く美しい。そして<円>のシリーズ。構成、という点だけを観ると現在のCGアートっぽくも思えるが、その質感は全く違う。これはアナログでしか出せないザラリとした美だ。
全てを観終わると、もう常設展を観るだけの余力は無かった。圧倒された。