突然、フッと何年も聴いていなかったような曲を聴こうと思い立つ時がある。
今日もそのパターンだ。
一柳慧、今や日本の作曲界(この場合、あくまでも「現代音楽畑の」という文字どおりのカッコ書きが付く/笑)の大御所的存在と言っても良いだろう。と言っても、そう呼ばれる作曲家がまた何人かいるのも事実だが。
<ピアノ・メディア>は、そんな一柳の若い時の作品である。書かれたのが1972年だから、まだ前衛の時代だった1950〜60年代の名残、空気が漂っていた頃だ。これはコンピューターが演奏するモーツァルトのピアノ・ソナタに衝撃を受けた一柳が、科学の時代における音楽のあり方の一面を提示したものである。
9音で構成されたひとつのパターンを延々と、急速なスピードで繰り返す。それに対し最初は白玉(まあ、長く延びた音だと思えば良い)でぼつり、ぼつりと音を置いていく。次第に音価(=長さ)が小さく(短く)なり、繰り返される9音のパターンに絡んでいく。楽譜(全音のピアノピースで出ていた。今もあるのかな)を見れば、その恐ろしく複雑になっていく過程が視覚的にも理解できる。
ライヒの初期の音楽(例えば<ピアノ・フェイズ>)と似ているようにも思うが、何か決定的に違うものを感じる。それは<ピアノ・メディア>の方が、メカニカルな存在としての音楽を目指している、ということだろうか。
演奏。初演者にして、多分唯一の録音。とは言え、高橋アキの鋭利で透徹した演奏ひとつがあれば十分にも思う。もし本当にパソコンで再現してもさほどに面白みは感じないだろう。それは、機械的な音楽を人間が演奏する、という肉体の限界に挑むこと自体への興味から来るものだ。