長田弘の<黙されたことば>という詩集を読む。
表紙に描かれたクレーの「忘れっぽい天使」がとても印象的だ。
さて中身。それぞれの詩が、クラシックの作曲家をテーマとした連作になっている。バッハからモーツァルト、シューマンにバルトーク、ショスタコーヴィチまで25人の作曲家が取り上げられている。
例えば<音楽>と題された詩はこう始まる。
静けさをまなばなければならない。
聴くことをまなばなければならない。
よい時間でないなら、人生は何だろう?
これはバッハについて。
また<冬の光り>という作品。バルトークを描いている。その終わりの部分。
急がねばならない。バルトークは言った。
静寂という静寂が滅ばされようとしている。
尊厳を育むものは、だが静寂なのだ。
全編を読まないとちょっと分かりにくいだろうけれど、その作曲家の本質を限られたことばで実に深く語っていると思う。詩としての美しさ、という以上の素晴らしい作曲家論でもある。
ベートーヴェンについての<そうでなければならい>から。
魂に、リズムを彫りこむ仕事。
ベートーヴェンは記した。音楽は
そうなのか? そうでなければならない。
ことばから音楽が立ちのぼる。その作曲家を知らない人も、音楽を聴きたくなるはずだ。この詩集を知ってから5〜6年が経つが、これまでに僕は何人かにこの詩集を贈ったし、音楽好きにはぜひ触れて欲しい一冊だ。